心という楽器

「歌は体が楽器」ってよく言うけれど、それと同じくらい「歌は心が楽器」だと信じて、自分自身や教える方々のメンテナンスに取り組んでいます。


見えない楽器である心は、とても繊細で柔らかなものです。なにかがあると浮き上がり、なにかがあると沈み込む。緊張すると固くなったり、手を離れた風船みたいに飛んでいってしまったりもします。


若い頃のわたしは特に、心の調子に左右されがちで、どうすればいろんなことがうまくいくのかわからないまま、外側にばかり答えを求め続けていました。あまりに悩みすぎて、御岳山で宿坊に泊まって滝に打たれたこともありました。夏の終わりだったので、ひんやりと気持ちよく滝行はおわりましたが、心が強くなったかどうかは、わからないままでした。そんな状態が二十年近く続きました。


それが去年あたりからでしょうか、数学や物理の本を読むようになって、自分なりにその法則をあてはめて歌うようになり始めたら、いろんなことが随分と楽になり始めました。これまでの人生で、理数系が得意だったことは一度たりともない私でしたが、去年は何故だかむさぼるように、数学や物理の本を読みふけりました。

日本を代表する数学者のおひとりである岡 潔先生は「数学は論理ではなく、情緒である」「人の情緒は固有のメロディーで、その中に流れと彩りと輝きがある」という言葉を残されておいでです。この言葉と出会って、いろんなことが腑に落ちました。数学も、物理も、音楽も、アウトプットの媒体が違うだけで、みんなひとつのことに繋がっているように思いました。

それから、心掛けるようにしているのは、なによりもまず最初に、心が穏やかな状態をつくりだすこと。ふんわりした心持ちこそを、大事にすること。のんきであること。ネガティブ思考で心配性だったわたしには難しいことだったけれど、最近は随分と心持ちが楽になりました。そして、声や音楽が変わり続けています。だからこそ、心が楽になること、心が解放されることこそが、すべての要だと信じています。


日常生活を送っていると、様々な場面があると思います。時に、誰かが放った心ないひと言で心が傷つくこともあると思います。TwitterのTLで見かけた言葉に心が落ち着かなくなったり、Facebookの投稿に心がざわついたりすることもあると思います。


そんな時には、自分の柔らかく繊細な心を守ることこそを、大事にしてください。あなたの心を傷つけるものを、あなたの人生に立ち入らせないでください。しっかりと線を引いて、あなたの心を傷つけるものを、あなたの人生から注意深く取り除いてください。心は時に、傷つけるものにこそ価値を見出して、認めてもらおうと努力を重ねたりもしますが、それよりも、あなたを認めてくれて、大事にしてくれるものこそを、大事に育ててください。


そして、心が傷ついた時には、平気なふりはしないでください。まずは痛みをしっかり感じて、それに耐えることが出来た自分を受け止めてください。しっかりと、認めて、ほめてあげてください。そして、あったかいものを飲んだり、好きな音楽を聴いたり、好きなおやつを食べたりして、心がふんわりとなる行動を選び続けてください。そして世界にひとつだけの、あなたの心という楽器を大事に育て続けてください。


きょうもいちにち、おつかれさまでした。どうか、明日もいい一日になりますように。



藤野沙優 Official Web Site

まあるく、生きる。 まあるく、暮らす。