ふとした気付き

仕事のことをずっと考えていて、ふっと思い至ったのが「わたしは、目の前のひとが、そのひとらしく笑っていられるためのサポートをすることが好きなんだ」ということ。


演奏の現場だけではなく、個人の指導でも、合唱団の指導でも、ボイストレーニングのお教室の指導でも、それは同じ。月1度の施設での演奏会も、去年から地元で始めたうたごえサークルの活動でも、それは同じ。


目の前のひとの心が、柔らかさを取り戻して、ふんわりと開いていって、笑顔になっていく瞬間が、とても好き。その瞬間に寄り添えることが、自分にとってはものすごく嬉しくて、自然なことなんだ…と、はっと気づきました。


そしてこのところ、その瞬間をしみじみと感じることが多くて、もっと教える仕事も大事にしていきたいな……と考えるようになり始めました。


わたしは学部4年の時にメゾソプラノからソプラノに転向して、それからサグラダファミリアみたいにずっと、ずっと長い基礎工事が続いています。去年からはソプラノ・ドラマティコに転向して、少しずつレパートリーを拡げようとしていて……ようやくここ最近になって、ほんとうの自分の声と出会うための扉に手をかけられたような気がしています。昨年、不惑を迎えたわたしにとっては、20年近くにおよぶ、長い、長い旅でした。


何もかもがどうしようもなくて、絶望して、自暴自棄になりそうな時もありました。メンタルの弱さゆえにダークサイドにすっかり取り込まれた時期もあったし、体調不良でドロップアウトしかけた時期もありました。完全に違う仕事(不動産会社で図面を書いてたり、リフレクソロジーを学んだりしてアロマセラピストを目指したり、旅行会社で記事を書いてたり、あれやこれや)をやっていた時期もありました。決して順風満帆ではなく、挫折ばっかりで、紆余曲折ばかりの人生でした。いま思えば、楽器が大きすぎて、それを扱うには時期が至っていなかったのだと理解できます。楽器が育つにも、長い、長い時間がかかりました。


でも、挫折ばっかりで、その度に粉々に砕かれて、その欠片をモザイク細工みたいにひとつひとつ繋ぎ合わせて、新しくビジョンを掲げて、再構築していって……っていう作業を、数えるのも忘れるくらいに繰り返していると、ひりひりとした心の痛みや、治癒から再構築にかけての過程を客観視出来るようになりました。繰り返し体験していったその過程を、客観視して、精査して、分析出来るようになってきました。


そうした経験をくぐり抜けてきたわたしのレッスンは、どうやらカウンセリングやコーチングの要素が強いらしい……と、数日前に気がつきました。自分自身が、メンタルを基盤とした自己管理に時間をかけているからこその特性かもしれない。そんな気がします。これからは、そんな自分の特性を理解した上で、コーチングなどのアプローチも積極的に学んでいこうと考え始めました。


わたしはこれまでの人生において、決して王道やエリートコースを歩いてきた訳ではありません。叶うことならば、そう呼ばれるものを歩いてみたかった。けれど、これまでの数えきれない絶望や挫折からの回復という経験こそが、わたしの歌を磨いてきてくれたなら、いまはその全てに感謝を捧げたいです。そして、前を向いて朗らかに、自分だけの道を最後まで歩き抜きたいです。


いろいろなことに改めて気がついた今、教える仕事でも自分が出来ることを改善していくために出来ることは何だろう……と考えています。そして、まずは自分自身を佳き方向に導いていけるように、実験を始めてみようと決めました。ひとまず三週間、じっくり自分自身に寄り添いながら、伴走してみます。また、報告します。

藤野沙優 Official Web Site

まあるく、生きる。 まあるく、暮らす。