呼吸と脱力のはなし─(2)脱力のまえに、背骨のこと。


 声楽初学者の方や、合唱愛好家の方向けに、声楽のみならず、歌う時に大事な「呼吸」と「脱力」についての話を深めていこうと、前回から「呼吸と脱力のはなし」を始めました。


 前回は「ブレストレーニング」について記しました。呼吸を意識的にトレーニングしていくことにより、内的器官の鍛錬も叶い、結果として持ち声を育てていくことが出来るというお話をしました。


 第2回となる今回は、「脱力」について記していこうと思っていたのですが……。前回の記事に寄せられたお声を読んでいると、「もっと呼吸について深堀りしていった方が、脱力を深く理解出来るのではないかしら」と思い至りました。


 そこで、引き続き呼吸について記していこうと決めました。今回の主なテーマは、「背骨」。呼吸と背骨との関係についてのお話をしていきます。



まず、大事なこと。それは、「息を吐いて、吸うこと」。


 さて、呼吸をする時、何を意識するでしょうか?

 たとえば歌う時、「呼吸を意識して」と言われた場合、アクションとしてまず、何を起こすでしょうか?


 「『息を吸う』ことが、まずは大事でしょ?」


 はい。とても大事なことです。


 けれど、不思議なもので「息を吸う」ことに意識が向きすぎてしまうと、肩が上がってしまったり、首筋に力が入ってしまったりと、余分な力が生まれてしまいます。そうすると、結果として力の入った硬い声になってしまいます。


 まずは意識的に「息を吐く」ことを大事にしてみましょう。「吐いたら、吸う」ことを大事にしてみましょう。正しく息を吐いていくことで、体と心の余分な緊張をほどいていくことが可能となり、納得のいくパフォーマンスを得ることが可能となります。



息を吐く時の、体の内側─肺は縮み、背骨は伸びる


 それでは、息を吐く時には、体の内側はどのようになっているのでしょう。細かく、ご自分の体の内側を観察しながら、内側の状態を確認しながら、読み進めてみてください。


 その時に、まず意識していただきたいのは、「背骨は24個の骨から出来ている、じゃばらのようなものだ」ということ。首の頚椎(けいつい)が7個。胸・背中の胸椎(きょうつい)が12個。腰の腰椎(ようつい)が5個。合わせて24個です。その間をつないでいるのが、23個の椎間板(ついかんばん)です。そして、S字を描くように繋がっています。そう。背骨──脊柱(せきちゅう)は、一本のまっすぐな骨ではなく、細かい骨の連なりによって整っているのです。


 たぶん、ご自分の体の変化を確認していくには、まず息を吸うことから始めるといいでしょう。



①まず、息を吸い込みます。すると、風船のように肺に空気が満たされます。肺に空気が満たされ、肺の容積が増えるわけです。


②肺の容積が増えると、肋骨の幅が狭まり、体の内部深筋が下方へ開放されていきます。それに伴い、椎間板が圧迫され、胸椎の間隔が狭まります。また、脊柱の腰にかけてのカーブが深くなります。脊柱のS字の曲線の曲がり方が、きつめになるのです。ざっくりした言い方をすると、背骨が縮むのです。


③次に、息を吐いていきます。細く、長く吐いていくことを意識しましょう。すると、空気で満たされていた風船がしぼんでいくように、肺の容積も縮んでいきます。


④肺の容積が縮むと、肋骨の幅は広がり、体の内部深筋も上方へと向かいます。それに伴い、椎間板にかかる圧も減少し、胸椎の間隔が広がります。そして、脊柱の腰にかけてのカーブも広がります。背骨のS字の曲線が、ゆるやかになるのです。ざっくりした言い方をすると、背骨が伸びるのです。



 これが、呼吸の時に体の内側で起こっている出来事です。ざっくり言うと、息を吐くと、背骨が伸びるのです。いや、背骨が広がるって言った方がいいかな。アコーディオンのじゃばらのように、背骨が広がって、伸びていくのです。


 呼吸を通じて、体の内側を観察してみて、いかがでしたか? 普段、こんなに集中して体の内側の感覚を研ぎ澄ませていくことって、なかなかないですよね。


 そして、息を細く長く吐いている時に、体の内部の様々な圧が減少していくにつれて、楽になっていくのを感じませんでしたか? なにかがほどけていくような、広がっていくような感覚。


 それを感じていただくのが、あなたにとって正しい脱力の、第一歩につながるのです。



自分にとっての正しい脱力を知る


 このように、適切なやり方で「息を吐く」ことは、自分自身にとっての正しい脱力に繋がります。


 そして、前回お伝えしたブレストレーニングを応用していくことによって、マインドフルネスへのより深いアプローチも可能となっていきます。


 これは複数のお医者様と話し合った末での、個人の見解なのですが、不随意筋である横隔膜を、呼吸を通じて自分の意志でコントロールすることにより、自律神経が整っていくのではないか……という仮説を持っています。


 いずれにせよ、ブレストレーニングを通じて、自分の呼吸をコントロールしていくことは、心身の緊張を解く鍵になっていきます。


 では、どのように実践していくか? それについては、次回のコラムでマインドフルネスの最初の第一歩となるブレストレーニングの例をお伝えしていきたいと思います。



今回のまとめ──息を吐くと、背骨は伸びる。


 今回のまとめとしては、


◎息を吐くと、背骨は伸びる。


 このひと言に、尽きます。



 まずは、息を意識的に吸ってみてください。そして、息を吐くことに意識的に取り組んでみてください。次回は、息の吐き方・吸い方を整えていく実践的なトレーニングに取り組んでいきます。


 次回もどうぞお楽しみに!!