呼吸と脱力のはなし─(1)ブレストレーニング


 私は「ソプラノ・ドラマティコ」といって、太くてしっかりした響きの声を持っています。この、もともとの性質である「太くてしっかりした」という特徴は、どこから生まれたのだろう?と、改めて考えました。


 思い至ったのは、最初に習った声楽の先生が「呼吸」と「脱力」を、何よりも大事に教えてくださったこと。この2つは、声楽のみならず、様々なことに繋がる基礎であり、重要な要素です。


 「呼吸」と「脱力」については、今さら何を語るのか、という向きもあるかもしれません。確かに、声楽家として日々を過ごす上では、この二つは当たり前すぎることです。


 けれど、当たり前のことだからこそ、初学者の方にとっては何か気づきとなるのかもしれない。そのようにも思います。


 そこで「呼吸」と「脱力」についてのコラムも書いていくことを決めました。今日はまず、呼吸のこと。そして、「呼吸」を意識的にすることで、内的器官を育てていく、「ブレストレーニング」について書いていきたいと思います。



呼吸の基本──吐ききったら、自然に入ってくる


 最初に声楽のレッスンを受けに行ったのは、中学2年生の頃。オペラに出演されるという高校生の先輩が前にレッスンを受けていらして、その深みのある豊かなお声に圧倒されました。今も、第一線で活躍し続けるその先輩は、幼い頃からずっと私の憧れです。


 さてレッスンに通うようになって、最初に先生が教えてくださったのは、ティッシュを一枚掲げて、それを息で吹き飛ばしていく訓練。1セット10回で、たくさんやっていきました。おうちでも、暇を見つけてはたくさんやっていました。


 そして、吐く息をどれだけ長く伸ばせるか、ストップウォッチで測りました。これも1セット10回。必ずレッスンの前に、早くお伺いして、吐く息の計測作業をやるのが、いつものことでした。


 他にも、「こんにゃく体操」で脱力の重要性を教えてくださったり、ツイストで体幹を鍛えるトレーニングをしてくださいました。「こんにゃく体操」やツイストもレッスン前のルーティンになっていましたが、これは次の機会に書いていきます。今日はまず、呼吸のこと。


 吐く息を長く伸ばすトレーニング、最初は苦しくて苦しくて、すぐにプハアッ!!!となっていました。けれど不思議なもので、日々取り組み続けると、どんどん人間の体は変わってきます。受験の頃には1分以上吐き続けられるように変わっていました。若いってすばらしい。


 この吐く息のトレーニングをやっていると、最後まで息を吐ききった後、体を緩めるだけで、ふわっと息が自然と入ってくることに気が付きました。吸おうと意識しなくても、息が入ってくる。不思議だな、って思いました。これが呼吸の基本だときちんと知るのは、後年になってのことです。原体験はきちんとあったのに、知識として繋がるのって時間がかかるといういい例です。


 今にして思えば、この呼吸の訓練こそが、私の内部器官を育ててくれて、結果として持ち声を育ててくれたのだと分かります。ブレスの長さをお褒めいただく機会もありますが、それも思春期からの基礎訓練によるものが大きいのかもしれません。今も変わらず、「呼吸」と「脱力」は非常に大きなテーマになっているので、日々の地道な積み重ねが自分の楽器を育ててきたのだと思います。


 当時は、発声どうこうとか、どんな歌を歌っていくかということばかりに気が向いていましたが、生涯に渡る大事な財産を先生は育ててくださったのだと、言葉を綴りながら感謝の気持ちで胸がいっぱいです。W先生、本当にありがとうございます。



ブレストレーニング実践編──カウントで訓練する


 では、ここで私が現在、日々の暮らしの中で取り入れているブレストレーニングの一部をご紹介したいと思います。


 基本は「長く吐く→止める→短く吸う→止める→長く吐く…」の繰り返しです。これを、カウントしながらおこないます。



 以下に簡単なものから、徐々に難易度を上げたものを記します。


①2カウント長く吐く→2カウント止める→1カウント吸う→1カウント止める


②4カウント長く吐く→2カウント止める→1カウント吸う→1カウント止める


③6カウント長く吐く→2カウント止める→1カウント吸う→1カウント止める


④6カウント長く吐く→4カウント止める→1カウント吸う→1カウント止める


⑤8カウント長く吐く→2カウント止める→1カウント吸う→1カウント止める


⑥8カウント長く吐く→4カウント止める→1カウント吸う→1カウント止める


……


 書き出してみると地味ですが、このように、徐々にアレンジを加えていきます。パターンを変えることで、体の内側の状態も変わります。また訓練として、息を意識的に止める時間を設けることにより、体の内側を深く観察し、統制していくことも可能となります。普段は、もっと長い時間かけて吐くこともルーティンに加えています。また、もう少し長いカウントで吸うことも、訓練しています。ご自身の体調や状態に合わせて、自由にアレンジしてみてください。



マインドフルネスとしての効用も


 このブレストレーニング、マインドフルネスとしての効用もあります。窓を開けて、鳥の声を聞きながら、呼吸のカウントに集中していくことで、余計な雑念が頭の中からすうっと消えていくのです。


 悩み事が湧いてきた時などにも、ブレストレーニングで気持ちを切り替えています。そうすると、悩み事と自分自身を切り離して考えることが出来るようになり、気がつくと自然と流れて消えていきます。


 眠れない夜などに、ぜひお試しください。



呼吸と脱力のこと、書き続けていきます


 呼吸のことは、まだ深く書いていきたいのですが、ひとまず初回はこのへんで。次回は脱力のことを書いていきます。


 ご縁あって指導させていただく方々にも、声を育てていきたいなら、まずは呼吸と脱力をトレーニングすることから始めましょう、と伝え続けています。そして、呼吸と脱力に向き合う時間を意識的に設けることによって、歌う声もみるみるうちに変わっていきます。歌う声を変えていきたいなら、まずは呼吸と脱力です。


 そんな地味で地道だけど、とっても大事な呼吸と脱力のことを、これからも定期的に書き続けていきます。よろしくお願いします。